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♬ ~初めての言葉~ ♬   テープ起こしで出会う言葉たち

テープ起こしの仕事をしていると、さまざまな言葉に出会います。知らない言葉、聞き取れない言葉、聞き間違った言葉。印象に残る言葉を折々集めてみたブログです。

【アドホック(ad hoc)】

この言葉に初めて接したのは10代後半だったと思う。新宿紀伊國屋書店本店の裏側にある、紀伊國屋アドホックを知ったときだった。

当時も英和辞典を引いた記憶がある。そして、「裏庭の」とか「予備の」とかいうニュアンスの言葉だというふうに記憶した。つまりは二号店みたいな感じで私の中には位置づけられた。そういう訳語が辞書にあったのかどうか、今となっては不明だが。30年ほど前の紀伊國屋アドホックには、入り口にアクセサリー屋さんの出店があり、地図や地球儀を売る店があり、スポーツ用品店が入り、といった感じの「浅草」っぽい雰囲気のある建物だったのだ。

「初めての言葉」シリーズで紹介するからには、それなりの使用法を説明せねばなりません。改めて辞書を引き、かつ、実際に使われている用例から判断するに、官僚、行政の世界で使われるときには次のようなニュアンスが強いと思われます。

特別の

単発の

臨時の (反対語:常設の)

暫定的な

つまり、省庁内の正規の委員会や会議体ではなく、そのとき限り、緊急テーマに基づく、あるいは有志のみで開かれる会議、みたいなものを指すときに、「アドホックな会議を開きました」みたいな感じで使われています。

官僚が自分たちの話として使う場合には、悪いニュアンスは含まれないという印象です。ネガティブどころか、「臨機応変」といった積極的な意味を持っており、そこに入れるメンバーであるとしたら、そのことを誇りに思っている雰囲気すら伝わってきます。あるいは、望んでいないのにその任務に巻き込まれた側であれば、本来業務に「アドホックな」任務が追加されたのはアンラッキー、災難だ、というニュアンスもあるかもしれません。

言葉というのは、ニュアンス、文脈がわからなければ正しく使えません。良いイメージなのか、悪いイメージなのか。形容詞を適切に使えるかどうか、はたまた、使われた形容詞に込められたニュアンスが受け取れるかどうか、そのセンサーの有無がすべてだと思います。

【マル政】

率直に言って、「上品な言葉ですね~」とは言えない印象があります。ちょっとした業界用語でしょうか、隠語っぽいニュアンスもありますし、だいいち一般人は使いませんよね。「マル政案件」とか「マル政銘柄」というふうに使われるようです。

意味するところは何かと言えば、(あくまでも個人的見解なので異論があるかもしれませんが)、政治的判断が必要な事柄、といった感じでしょうか。より具体的に言えば、政治家が絡む余地がある事柄、あるいは、政治家が出てこなければ解決しない事柄、もっと言えば、政治家が口を出してくる可能性がある事柄、というニュアンス。

カタカナの「マル」と漢字一文字を組み合わせた言葉はたくさんありますね。思いつくものを挙げてみました。

   ・マル秘
  ・マル福
  ・マル特
  ・マル優
  ・マル老
  ・マル合
  ・マル障

いずれも漢字をマルで囲んだ判がペタリと押された書類が目に浮かびます。かつ、規則上あるいは手続き上、現実対応としてこのように分類しています、という内部処理的ニュアンスを感じます。カタカナと漢字を組み合わせた言葉って、どこかおさまりが悪いです。また、この例に限らず、業界用語というのは、どんな業界の言葉であってもどこか崩れた感じ、すれた感じが漂うように感じます。使っている人たちに、この言葉を使っているのは選ばれた特定の人間なんだぞという、得意げかつ排他的な意識が想像されるからでしょうか。まったくもって勝手な想像ですけれどね。発祥は、長々と言っていると面倒だから縮めてこう呼ぶことにしましょう、というところから始まったのかもしれませんし、こうして部外者も知っているのでは符牒としての意味を成さないわけですが、符牒的なにおいがまったくないかといえば、やはりまったくないとは言えないように思います。

 

 

【猟官運動】(りょうかんうんどう)

猟官運動」の前に、【猟官制】(spoils system りょうかんせい)についてチェックしてみた。ウィキペディアにも載っている。そのまま拝借。

公職の任命を政治的背景に基づいて行うこと。特に政党政治が発展した19世紀のアメリカやイギリスなどで盛んに行われ、選挙で政権政党が交替するたびに中央・地方を問わず公務員のほとんどが新しい政権政党系の人物に変更された。党人任用制(とうじんにんようせい)とも表現される。

続けて由来が書かれている。ここもそのまま拝借。

選挙によって政権を獲得すると、政権運営に必要な公職を政権の支持派で固めるため、しばしば公務員の入替が行われた。それは公職をあたかも狩猟の獲物(スポイルズ)のように扱っていることを皮肉ったアメリカ上院議員のウィリアム・マーシーが命名したと言われている。

もっとも、当時において猟官制が売官制や情実主義のように罪悪視されていたわけではなく、むしろ絶対王政的な官僚制から近代民主主義を防衛するために必要な制度であると考えられた点に留意する必要がある。

そして、【猟官運動】であるが、これは一般的な使用法がわからないのだが、やはりネットで見てみたところ、はてなキーワードには次のような説明があった。そのまま拝借。

猟官とは、字義通り、官職を手に入れようとすること。猟官運動とは、単純には官職を手に入れようと有力者に働きかけたり、何らかの形で経綸を述べたり、あるいは大っぴらには言えないようなことをすることである。なお、「官職」とは単純には公務員としてのポストであるが、場合によっては位階(冠位)を得ようという努力についても、この語が用いられることがある。

 近代的な官僚制度が整備される以前、官職とは給料以外にも特権や余録を含んでいるのが常であり、それを手に入れるためにある程度の代価を払うのが当然と思われていた時代もあった。
 またそのような事情がなかったとしても、「適材適所」を言葉通りの意味で実現・保証する手段が存在しない以上、何らかの形で「有力者」が公務員人事に容喙するのは珍しいことではなかった。

これらを読むと、歴史的経緯を踏まえると「猟官」=「悪」というイメージでとらえるのは必ずしもあてはまらないことがわかる。

しかし、現代の日本においてこの表現が使われるときには、マイナスのニュアンスが含まれることが多いのではないかと想像される。

追記

この記事の下書きをしたのは2013年前後だったと記憶している。2016年9月現在、ネットを検索してみたところ、【猟官運動】で、出典、デジタル大辞泉として、gooの国語辞典に記事がありました。これもそのまま拝借。

 

大臣や高級官僚などの地位を得ようとして、力のある人物に働きかけること。

はい、そのまんまでしたね。というわけで、文脈から意味を推測するのは簡単な言葉だと思うので、聞き取りさえできれば、たとえ知らなくても正解にたどり着くのは可能。

 

 

 

 

【りんせい】 【ひんせい】

またまた音だけでは、とっさに思い浮かばない言葉をご紹介。

お役人用語なので、もちろんご存じの方もあるとは思いますが。

漢字でどう書くかというと

   稟請

です。

 

文字を見れば、ああ、稟議の「稟(りん)」に「請求」の「請(せい)」だなとわかります。

でも、「大口が必要なときは本省にリンセイするわけですが」とさらっと言われると、なかなか難しい。「り」の「R」の音が聞こえていたら大丈夫ですが、聞こえていなかったら、たぶん永久に正解にはたどり着かない。

 

ネットの「コトバンク」から説明をお借りすると。

「《「ひんせい」の慣用読み》上役や上部機関などに申し出て請求すること。申請。「部下の昇進を―する」

だそうです。

読んで字のごとく、なんですよね。

でも、知らなかったら聞こえないかも。

知らない言葉は聞こえない。一度でも目にしていれば、ひらめくかもしれません。

 

【きっきゅうじょ】

お久しぶりの更新です。今日は、実際のテープ起こしの現場で聞いた単語。話し手が動作を示しながら話してくださったので、初めて聞いたけれど意味はわかりました。

でも字は……。

自分で録音しましたし、発音も明確、録音も良好だったので、正確に聞き取れていると思ったのですが、「きっきゅうじょ」とは聞こえず、「ききゅうじょ」「くっきょうじょ」とか、微妙にいろいろに聞こえるので、調べるのに少し時間がかかりました。

答えは……。

     鞠躬如 (きっきゅうじょ)

意味は「身をかがめて、つつみかしこまるさま」とコトバンクには出ています。

 は「まり」ですね。

躬   は「自ら。自分で」という意味のようです。

如 は、素直に「~のごとく、~のように」

ということは、自分から鞠のように体を丸める、という意味で、つつみかしこまるさまということになるでしょうか。一字ごとの意味は調べましたが、鞠躬如の語源がそういうことなのかどうかは未確認。

覚えた以上は、どこかで使えたら嬉しいところです。

 

 

 

 

【しょうにあたる】

「しょうにあたる」で検索してみると、いきなり「衝に当たる」だけが出てきます。

テープ起こしをしていて正確に聞き取れたのであれば、この表現を知らなかったとしても一発で確認ができます。聞こえなかった場合、どうでしょうね。

「しょにあたる」「しょうにある」「しょうにあう」……

という感じで順番に調べていくことになるでしょうか。「しょう」と読める漢字は相当数ありますから、なかなか難儀な作業になりそうです。

 

・まず、「衝」という字に注目してみました。パッと思い浮かぶ「衝」を使った熟語は、「衝撃」「衝突」「要衝」「折衝」など。

「衝」の意味は3つありました。

1 必ず通る道や地点。要所。「水陸交通の―にある都市」

2 大事な任務。「外交の―にあたる」

3 外惑星が地球を挟んで太陽と正反対の方向に来ること。惑星の黄経と太陽の黄経との差が180度になること。このとき外惑星は地球に最も近づく。

 

3は、へえーー、というだけで、次の瞬間に忘れてしまいそうです。

「衝に当たる」の「衝」は、まさに2の「大事な任務」の意味ですね。


・ついでに「要衝」を調べると……

軍事・交通・産業のうえで大切な地点。要所。

とありましたから、、「要衝」の「衝」は「衝に当たる」の「衝」と同じような意味合いです。

 

・さて、そうなると、「衝突」も気になります。

1  突き当たること。ぶつかること。 「自動車が-する」 「 -事故」

2  利害・意見などの相反するものが争うこと。 「意見が-する」

この場合の「衝」は、上記の「衝」の1「要所」、2「大事な任務」とは

若干ニュアンスが違う感じ。


・それでは、「衝撃」は?

1  激しく突き当たること。また,それによって起こる刺激。

2  思いがけない出来事によって起こる,心の激しい動き。

3  物体に瞬間的に激しい力が加えられること。また,その力。

「衝」は、「刺激」「動き」「力の付加」のようなニュアンスになっています。

「要所」「大事な任務」とはやはり違います。

・そして、「折衝」は?

〔敵の衝(つ)いてくる矛先をくじく意〕
有利に事を運ぶように,相手と駆け引きすること。また,その駆け引き。外交的または政治的駆け引きなどにいう。

あっ! ここで「衝(つ)く」という意味があることを発見。「衝突」や「衝撃」の「衝」は、こっちの意味ですね。

 

【しょうにあたる】から、「衝」の字についての語感が広がりました。

 

 

 

 

【かくぎせいぎ】【かくぎふぎ】

日本語は難しいと感じるのは、一目見れば意味がわかるのに、聞いただけではわからない言葉に出会ったときです。日本語を母語としない人が日本語を学ぶ場合、「読み書き」を主眼とするのか、「会話」を主眼とするのか、それによってアプローチがまったく変わってくるだろうと思いますが、漢字とひらがな、カタカナも学ぶ必要があるから、やはり読み書きのほうがハードルが高いのでしょうか。もちろん専門とする分野があり、その必要性から日本語を学ぶ場合は、また違ってくるとは思いますが。

さて、日本人として生まれて、日本語の読み書きが普通にできる人であっても、この言葉を初めて聞いて、正確に聞き取り、かつ、正確な漢字を思い浮かべられる人は、そう多くないのではないでしょうか。

    かくぎせいぎ   かくぎふぎ

閣議議事録公開のニュースを見たときに、閣議について少し確認してみました。そのときに思い出したのがこの言葉でした。漢字では

    閣議請議    閣議付議

と書きます。

文字を見ると、なんとなく意味が想像できるでしょう? 漢字というのはすばらしい文字です。さらに、漢字とひらがな(時にはカタカナ、アルファベット)を組み合わせた日本語って、奥が深いですね。

さて、閣議とは何でしょう。「首相官邸」のHPに詳しく載っています。http://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/1-2-5.html

この中の、(5) 議事内容の公表には、以下のように記載されています。

閣議において、各大臣の隔意のない意見の交換を望む関係上、閣議の議事は非公開とされ、また、個々の発言を記録した議事録は残されていない。なお、閣議の概要については、内閣官房長官の記者会見において発表されることになっている。

「議事録はない」とあります。それを作りましょう。さらに、議事すら「非公開」であったのに、議事録を「公開」にしましょう、というわけです。しかし、実際には出席閣僚の全員一致が原則とされ、事前にすべての根回しが済み、全員一致が確実になった状態でなければ閣議は開催されません。ということは、その場は花押の押印がメインの作業。議論などなされるはずもなく、それを公開して何の意味があるのでしょう、という疑問が湧きます。

閣議にかかる前のプロセスについては、これまた安倍内閣ではおおいに注目を集めた内閣法制局のHPにわかりやすく記載されています。閣議付議、閣議請議の意味も、ここを読めばよくわかります。
http://www.clb.go.jp/law/process.html

ここにあるように、すべての法案は内閣法制局という関所を通過してから閣議請議されます。そこで、内閣法制局長官に、集団的自衛権に関する自分の考えに同調する人を持ってくればいい、と考えた安倍首相が、何かと話題となった小松氏を長官に据えたわけです。その後、小松氏は孤立していきます。

小松長官の任命、閣議議事録の公開、同じにおいのする出来事です。

(2014年4月23日に、別のブログにアップした記事をこちらにコピーしました)