♬ ~初めての言葉~ ♬   テープ起こしで出会う言葉たち

テープ起こしの仕事をしていると、さまざまな言葉に出会います。知らない言葉、聞き取れない言葉、聞き間違った言葉。印象に残る言葉を折々集めてみたブログです。

【ほしつ(補室)】

音が聞き取れた場合は、例によって辞書を引いてみます。

 保湿

あ、一つしか出てきません。

ここでご紹介しようと思っている「ほしつ」は、永田町・霞が関方面の略語です。

   補室 = 内閣官房副長官補室

内閣官房にある組織の一つです。

内閣官房副長官ではなく、内閣官房副長官補 のいる組織のことです。

内閣官房副長官補は3人います。

では、内閣官房とはなんぞや。内閣府とは違うのか? などなど、わかりにくいことはたくさんあります。しかし、実際にその職場、職務の人が日々どんな仕事をし、どんな役目を果たしているのか、というのは、官庁に限らず、民間でも、外からははかりしれないことが多いです。官庁の場合、正式な所掌事務等については法律等によって定められているので、表向きの役割は民間よりも明確だ、という言い方もできます。

歴史的な経緯をいうと、橋本内閣が進めて、森内閣になって実現した中央省庁再編により、内閣内政審議室、内閣外政審議室、内閣安全保障・危機管理室の3室が廃止されてできた「室」です。縦割り行政の弊害を廃し、横断的な行政を実行することを目的の一つとしていたようですが、3人の副長官補の役割分担は、内政担当(財務省出身者)、外政担当(外務省出身者)、安全保障・危機管理担当(警察庁・防衛省出身者)となっており、3室時代の流れを踏襲しています。

そして、この補室がどのような案件にどのように具体的に関わるのかというのは、外からはまったく見えてきませんが、オーラル・ヒストリーの中では、「ああ、そういうときにそういう働きをするのですか」といったことが初めて具体的にわかることがあります。オーラル・ヒストリーには、人間の具体的な動きを見せてくれるという役割があると思います。

テープ起こし者は、同席してお話を録音し、それを文字化・テキスト化するのが役割ですが、時にはオーラル・ヒストリーが行なわれていること自体、口外できないこともありますし、ましてや内容は当然口外できませんから、研究者以外の人とそこで知り得た知識を共有できません。時が経過して、研究成果が冊子化されたり、オーラル・ヒストリーで聞き取られた内容に基づいて研究者が論文や書籍を書いたりすると、ようやく自分の仕事が世の中と共有できたような気持ちになります。

テープ起こしをする時点で内容がわかっていてもわからなくても、「わかったように」文章を文字化しなければなりません。例えば「ほしつ」と聞いて、それが「内閣官房副長官補室」であるとわかったとしても、それだけではその役割や性格等を「イメージ」できません。そして、そのようなケースは少ないないのです。綿密な資料が事前に用意されていて、自分で調べる必要がほとんどないような場合でも、専門家の話す話を、専門家でない人間が同レベルで理解できるはずがありませんから。

とはいえ、個々の事象、個々の分野の専門的知識等々を深く理解するところまでは望めなくとも、話し手の意図をくみ取ったうえで正しく(意図や主張を損なうことなく)文字化するためには、語感、文脈、ニュアンスなどを承知していることが求められます。

というわけで、例えば内閣官房回りの話が出てくれば、検索上位に出てくる範囲のことはざざっとひととおり斜め読みして、大切な情報をピックアップして、周辺の事柄についての相場観がそれなりにできていくよう努めます。

そうやって調べていたら、内閣官房全体の概要も含み、「補室」についてまとめられた文章を見つけました。ご興味のある方はこちらをどうぞ。「内閣官房副長官補室に出向して (特許審査第三部金属電気化学 審査官 井上 能宏)」