♬ ~初めての言葉~ ♬   テープ起こしで出会う言葉たち

テープ起こしの仕事をしていると、さまざまな言葉に出会います。知らない言葉、聞き取れない言葉、聞き間違った言葉。印象に残る言葉を折々集めてみたブログです。

【デマケ】

 

霞が関ジャーゴンです。その他のところで使われるケースがあるのかどうかわかりませんが、霞が関ではごく普通に使われます。霞が関ジャーゴンって英語発のものがわりあい多くて、外の人間としては鼻白むものも結構あるのですが……。

デマケは、【デマケーション(demarcation)】の略です。

それじゃ、デマケーションとは何ぞや? ということですが、一般的には「境界区分」といった意味です。

で、霞が関で「デマケ」が使われる場合はどうかというと……
「業務分担」という意味に使われることが多いと思います。

 

ちょっと作文してみます。例えば……

---------------

「この案件のデマケをするのは、どのあたりの役職の方の責任になりますか?」

「この案件あたりですと、やはり課長ですね」

「局長には上げませんか?」

「通常、局長ではなく課長に任されます」

---------------

みたいな感じでしょうか。使い方は普通ですね。しかし、霞が関における「業務分担」とは、決して個人同士のやりとりで軽々しく踏み越えたり変更したり、勝手な判断のもとに決定されたりすることはありません。責任の所在、所管は大切です。「デマケ」は「縄張り」と裏腹というか同根の言葉ですね。

官僚は、何らかの法的根拠、文書上の根拠に基づいた行動をしていれば、積極的であるか消極的であるかといった批判はあり得ますが、非はないわけですし、責任を追及されることもありません。根拠の有無が重要です。

省内、局内レベルのデマケは、「我が局」同士の争いになりますし、省をまたげば「我が省」同士の対決になりますから、積極的に取り組みたい案件であっても、できれば避けたい案件であっても、その折衝は非常に重要です。積極的・消極的な縄張り争いの結果、どうしてもどこか一つの省に落とせないものは内閣府に……という傾向もあるようです。

霞が関では予算と人事がすべてを決します。他省庁とのあいだで(あるいは財務省とのあいだで)ギリギリと陣地合戦、予算分捕り合戦をしなければならないのが霞が関の世界です。予算がつかないものは始められません。そして、「業務→人→お金」と関連しているわけですから、「ちょっとおたくの○○君を借りるね」とか「ちょっとおたくよりうちの分担を増やしてね」なんていうこともなく、人の貸し借りもすべて原則として予算の下になされます。ある省のある部局の人数を変えるだけでも法律改正が必要になりますし、法的根拠のない人事には給料が出ません。そんなときに「手弁当」という言葉が出てきます。(これについては別項目として書く予定です)

有能な官僚の方は大勢いますし、ものすごくハードに働き、有意義な仕事を日々しています。しかし、そうした優秀なリソース(この言葉も官僚の人は好きかも)が、境界区分争い、予算捕り、といった他省庁との覇権争いにどれだけ多く割かれているかを仄聞するにつけ、官僚制度全体で膨大なエネルギーが内向きに消費されているように思えます。予算折衝の重要性は理解できますが、その非生産性を残念に思います。