【(流れに)棹さす】
最も有名だと思われる使用例はこちら。
「山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。情に棹さおさせば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
夏目漱石の『草枕』の冒頭。鴨長明の『方丈記』同様、ものすごく印象深い一節です。
さて、「棹さす」というのを誤って使う方が時々います。起こすときに困るんですね~。ある程度まとめてしまっていい場合(講演録など)は、間違ったままでは話し手に気の毒なので、こっそり別の表現に直すか、その部分を削除するか、などしてしまいます。でも、そこが全体の中でものすごく大切な場合、どうしたものか悩んでしまいます。
本来の意味は……
流れに棹さすとは、好都合なことが重なり、順調に事が運ぶことのたとえ。
と辞書にありました。
『草枕』の「情に棹さす」というのは、少しニュアンスが違いますね。
「調子に合わせてうまく立ち回る」「駆り立てる」などの意味に近く、「情に駆り立てられて行動すると、流されてしまう」という感じでしょうか。
間違って使われるときはたいがい……
「水をさす」「(流れに)逆らう」「(流れを)押し戻す」といったニュアンスで使われます。
意味が逆になってしまいますから、言葉を変える以外、そこの部分の意味が通じるように直すことはできません。音を不正確に覚えていて、途中の仮名がひっくりかえった、というようなミスはご愛敬ですし、知らん顔して直すことができますが、逆の意味で使われてしまうと、そういうわけにもいかず困り果てます。
よく使う故事成語、四字熟語等は時々意味を確認してみたほうがいいですね。