♬ ~初めての言葉~ ♬   テープ起こしで出会う言葉たち

テープ起こしの仕事をしていると、さまざまな言葉に出会います。知らない言葉、聞き取れない言葉、聞き間違った言葉。印象に残る言葉を折々集めてみたブログです。

【業績構造】か【行政機構図】か

テープ起こしをしていて、耳から聞くだけでは危険なフレーズに出会いました。

そのまま引用するわけにはいかないので、作文します。

かつて官僚だった方に、研究者が質問事項を事前に送り、現役当時の仕事ぶり、仕事内容等について系統的にあれこれ質問してお答えいただいていました。

研究者の質問 「当時の行政管理庁が出している業績構造を見てみますと、中央省庁再編を挟んで、各省の定員の増減が……」

研究者も、お答えになる元官僚も、頭脳明晰、論理的なので、何を言いたいのかということも明確ですから、内容は高度であったとしても、芸能人のおしゃべりなどよりもずっと起こしやすい。とにかくすらすらと起こせます。でも、起こしていて「なんか変だな」と思うことがあります。「なんか変だな」のときは、必ず立ち止まらないといけません。その「勘」はかなりの確率で正しいです。鼻が利く、という感じでしょうか。

上の文章、文法的にはおかしくありません。でも、どこかおかしい。どこだろう。じーっと見てみます。霞が関の省庁の話をしているのに、省庁再編だ、定員だという話をしているのに、あれ? 業績っておかしくない? と気がつきます。そういえば、行政管理庁が業績構造を出す、っていうのもなんかおかしい。「業績構造」が、たぶん間違っているんだ。そう推定しながら聞き直します。そして、聞こえた音をローマ字であらわしてみます。gyousekikouzo やはり大きく聞き間違えている感じはないんですよね。

文章を読み直します。「業績」が違うのかな……。あっ、これは「行政」の話だから、gyouseki ではなくて、gyouseiki と「i」が入っていて……。そうか、「行政機構図」だ。

「行政機構図」をローマ字で書いてみましょうか。gyouseikikouzu 使われている子音は「業績構造」と同じです! 母音がどこにどう入るかが違うだけ。漢字にすれば「業績構造」「行政機構図」はまったく別物なのに、発音だけ聞くと

   gyousekikouzo 
   gyouseikikouzu

ほぼ同じ。耳から聞くときの、予想外の聞き間違いは、こういうところから来ます。子音は聞き取れているけれど、切りどころ、母音が聞き取れていない。明確に発音されていない。聞こえやすい録音ほど油断してはなりません。このように、聞き取れたつもりでも、意味が通っていないことがあります。しかも、いったん漢字にしてしまうと、なかなか間違いに気づきません。テープ起こしをするときは、音が良いときほど意味を考えてよく聞くべし。そして勘を侮るべからず、です。