【アドホック(ad hoc)】
この言葉に初めて接したのは10代後半だったと思う。新宿紀伊國屋書店本店の裏側にある、紀伊國屋アドホックを知ったときだった。
当時も英和辞典を引いた記憶がある。そして、「裏庭の」とか「予備の」とかいうニュアンスの言葉だというふうに記憶した。つまりは二号店みたいな感じで私の中には位置づけられた。そういう訳語が辞書にあったのかどうか、今となっては不明だが。30年ほど前の紀伊國屋アドホックには、入り口にアクセサリー屋さんの出店があり、地図や地球儀を売る店があり、スポーツ用品店が入り、といった感じの「浅草」っぽい雰囲気のある建物だったのだ。
「初めての言葉」シリーズで紹介するからには、それなりの使用法を説明せねばなりません。改めて辞書を引き、かつ、実際に使われている用例から判断するに、官僚、行政の世界で使われるときには次のようなニュアンスが強いと思われます。
特別の
単発の
臨時の (反対語:常設の)
暫定的な
つまり、省庁内の正規の委員会や会議体ではなく、そのとき限り、緊急テーマに基づく、あるいは有志のみで開かれる会議、みたいなものを指すときに、「アドホックな会議を開きました」みたいな感じで使われています。
官僚が自分たちの話として使う場合には、悪いニュアンスは含まれないという印象です。ネガティブどころか、「臨機応変」といった積極的な意味を持っており、そこに入れるメンバーであるとしたら、そのことを誇りに思っている雰囲気すら伝わってきます。あるいは、望んでいないのにその任務に巻き込まれた側であれば、本来業務に「アドホックな」任務が追加されたのはアンラッキー、災難だ、というニュアンスもあるかもしれません。
言葉というのは、ニュアンス、文脈がわからなければ正しく使えません。良いイメージなのか、悪いイメージなのか。形容詞を適切に使えるかどうか、はたまた、使われた形容詞に込められたニュアンスが受け取れるかどうか、そのセンサーの有無がすべてだと思います。